序章
3 ・ 邂逅
「紹介しよう。彼は
私の養子にあたる子で——今日から、君の相方となる仕事仲間だよ」
新しい勤め先の顔合わせで上司に紹介されたのは、ジルと歳の近い風貌の少年だった。
最初に魅きつけられたのは彼の瞳だった。
それは確かに、これまでジルが目にしてきた瞳の中で一番美しい
透きとおるような琥珀色、では表現としてはありふれている。もっと素晴らしい表現ができればいいのだけど、一般教養に疎い自分では形容するのが難しい。
目を引くような金でありながら、けしてきつくはなく、寧ろ慎ましやかな温かさすら感じるその双眸に、気がつけば釘付けになっていた。
「あの……何か?」
やがて彼の訝しむような声音に、意識を引き戻される。
普段あまり他人を凝視したりしないものだから、ジルはそんな自分に戸惑いを覚える。
見れば、近衛理玖と紹介された彼は、怪訝そうに首を傾げながらこちらを見上げているのだった。
「あ、いや。ごめん、失礼だったな。
オレはジル。ジル・テレストリアスだ。これからよろしく」
握手を求めるが、彼は印象的なその瞳を伏せ、「その……握手は、ちょっと」と申し訳なさそうに呟く。
魔法使いの中には、己の
「あー、いいんだ。気にしないでくれ。
なら、握手はいいからお前のこと聞かせてくれないか。
これから一緒に仕事するんだし、色々とお互いのこと知っていた方がいいだろ?」
「僕のことを?
誰かに話すほど中身のある人間じゃないのだけど……」
「なんでもいいよ。好きな食べ物とか。
オレは、そうだな——」
せめて印象を挽回しようと、取り付く島が無いか探る。
多くの人は初対面で他人と出会った時、何かしらの話題を作って相手と親しくなろうと努力するものだ。
自分もできるだけ、その習慣には習うようにしている。
魔法使いには色々な人間がいる。
いや、魔法使いに限った話ではなく、普通の人間であってもそれは変わらない。
善き人間、そして、決して許されるべきではない——悪しき人間。
目の前で困った表情をしている彼は、きっと善良な人であるのだろう。まだ出会って間もないが、数秒でも目を奪われた彼の温かな瞳がそれを物語っている。そう、ジルの直感が告げていた。
ならば仲間だ。親密になるに越したことはない。
加えてジルは、彼の雰囲気に妙な違和感を覚えたのである。
彼の瞳に惹かれたからこそ、生まれてしまったその疑念。
それは悪意などない、子どもが素朴な謎に興味を引かれることと、何ら変わりのない純粋な疑問。
彼、近衛理玖は、瞳の温かさに反して冬のような冷たい雰囲気を纏っている。
それはこれまでのジルの短い人生の中で、初めて出会う不思議な雰囲気だった。
それは何故なのか。
彼がそれを拒まないのならば、これから付き合っていく中でその理由を知ることができたなら。
こんなにも他人に興味を引かれることは、ジルにとって生まれて初めてだった。